心で探していた「オールディーズ」音楽ーGerry & The Pacemakersとリバプール
🤳 by Jun Nakajima
僕は「オールディーズ」の音楽が好きだ。いまの人たちの多くは「オールディーズ」と聞いても、ぱっとわからないかもしれない。一昔前までは「オールディーズ」はこの世界のなかでそれなりに陣取っていて、その世界観を、音楽を通じて、ファッションを通じて、生き方を通じて世界に表現していた。ストリーミングの音楽によって、昔の音楽も、今の音楽も、かなりフラットになり、検索すれば、昔と今の境界線が消えて、検索結果が表示される。ただ、最近はめっきり、オールディーズの出番が減ってきているように感じる。
それでも、その「音楽」は、現代版にアレンジされることで更新され、歌われ、演奏され、この世界の空気を振動させている。
「You’ll Never Walk Alone」という曲もそのひとつだ。イギリスのリヴァプールFC(LFC)のホームスタジアム、Anfieldでは、サポーターたちはこの曲を共に歌う。僕も、LFCのサポーターたちが歌うこの歌を聴いて、この歌の存在を知った。今年2025年の4月末、LFCはプレミアリーグを制覇し、この歌はAnfieldスタジアムで、サポーターたちはもちろん、選手たちやスタッフたちによって、熱く歌われた。YouTubeでその歌を聴いても圧倒されるほどであった。僕はここで、初めてこの歌の詳細を知ったのであった。
Apple Musicで早速この歌を検索し、LFC関連のアルバムに収められている曲を再生した。スタジアムで流れていたのは、Lena Del Reyによるこのバージョンであった。オリジナルは誰だろうと調べていると、1940年代にミュージカルで使われた曲のようだ。しかし、この曲は1960年代のバンド、リバプール出身のGerry & The Pacemakersによってひろめられた。ビートルズのプロデューサーであったGeorge Martinによるバンドということもあってか、質の高いオールディーズを聴かせてくれる。
けれども、僕が驚いたのは、このバンドの他の曲たちを聴いていたときだ。そこには、一九九〇年代後半、二十歳の僕が聴いていた「オールディーズ」が詰まっていたのだ。Gerry & The Pacemakersの「How do you do it?」「I like it」「How little girl」といった曲たちは、僕が東京、それからニュージーランドで暮らしていたときの「音楽」だった。ニュージーランドでは、当時ラジオのオールディーズ番組で僕はこれらの曲に親しみを覚えていた。僕の記憶は、たしかに、Gerryの「声」を記憶している。親しみのある、しかし深さをたたえた歌声。彼の歌声とメロディは、あのときの「僕」を憶いださせる。「あ、この曲だ」との発見に胸を躍らせる。ニュージーランドの優しい陽光が、屋外に立てたテントにいる僕を照らし、はずんだバンドの演奏を背景にGerryの声が僕に届く。そんな記憶が心に暖かくよみがり、僕はなんだか、不思議な気持ちになる。そして、オールディーズはやっぱりいいなあ、Gerry & The Pacemakersはいいなあ、と、彼らの曲に耳を傾けるのであった。
そして、僕は思わないわけにはいかない。「リバプール」が、僕の生のなかで、大切な「鍵」であることを。深層心理学のユングはかつて、自身のミッドライフの「危機」をきりぬけてゆくときに観た夢が「リバプール(Liverpool)」であったという。そこには「life(live)」(live + pool、命の池)が埋めこまれている(*)。かつてビートルズにインスピレーションを受けたとき、僕の想像には確かに「リバプール」があった。三十年以上も前のことだ。そこには「life」が埋めこまれていた。そして、いくぶんか、遠回りに生きてきて、「リバプール」がいま、僕を呼びとめる。
(*)また、「liverpool」という語の「liver」は「肝臓」の意味も連想させる。肝臓は古来、「命のある場所」と考えられていたようです。僕はこのことを、山根久美子さんの著書『自分を再生させるためのユング心理学入門』(日本実業出版社、2023年)で知りました。