「火星」を起点に、現実として宇宙を視野に。- Stephen L. Petranek著『How We'll Live on Mars』。 / by Jun Nakajima


ぼくの構想のひとつである「時間と空間の『人と社会』学/「生き方」学」(仮名)。

その「空間」の座標軸は、ひとまずは「グローバルへの広がり」を視野に入れながら、しかし、その先には「宇宙空間への広がり」を見据えている。

「そんなに大きな話を」という声に対しては、SpaceX社のElon Muskは「火星移住計画」を着実に進めているし、2030年代前半頃の実現見通しも言われている。

「仮説」や「妄想」は、確実に「現実」に向かっている。

 

その「現実性」を感じさせてくれた書籍のひとつに、Stephen L. Petranek著『How We'll Live on Mars』(TED Books, 2015)がある。

『私たちはいかに火星に住むのか』。

この書名は、二重の意味において「正しい」。

第一に、どのように火星に「到達」するかではなく、「住む」のかということについて書かれていること。

第二に、「どのように」住むのか、という具体性において書かれていること。

この二重の意味が、人が火星に降り立つ日が「目前」であることを伝えている。

 

【Contents(目次)】

Epigraph
Introduction: The Dream
Chapter 1:  Das Marsprojekt
Chapter 2:  The Great Private Space Race
Chapter 3:  Rockets Are Tricky
Chapter 4:  Big Questions
Chapter 5:  The Economics of Mars
Chapter 6:  Living on Mars
Chapter 7:  Making Mars in Earth’s Image
Chapter 8:  The Next Gold Rush
Chapter 9:  The Final Frontier
Imagining Life on Mars

 

「The Dream」と題されるイントロダクションは、「予測的な物語」で始まる。

 

A Prediction: 
In the year 2027, two sleek spacecraft dubbed Raptor 1 and Raptor 2 finally make it to Mars, slipping into orbit after a gruelling 243-day voyage. As Raptor 1 descends to the sufface, an estimated 50 percent of all the people on Earth are watching the event, some on huge outdoor LCD screens…

ひとつの予測:
2027年、流線型の宇宙船Raptor 1とRaptor 2が、いよいよ火星に到達する。宇宙船は243日の旅ののちに、火星の軌道にはいっていく。Raptor 1が火星の地表に向かっておりていくところ、地球の50%にあたる人びとがこのイベントを見ている。屋外のLCD巨大スクリーンで見ている人たちもいる。…

Stephen L. Petranek著『How We'll Live on Mars』(TED Books, 2015)
(※日本語訳はブログ著者)

 

それは、現実に見ているような錯覚を、ぼくに与える。

映画『The Martian』(オデッセイ)の風景が、ぼくの記憶の中で重なる。

このようなイントロダクションに始まり、Stephenは、火星への有人飛行と移住が技術的に可能であることなどを、具体性の中で語る。

Stephenは、Elon Muskが移住計画の全体の妥当性について、「環境的な障害」ではなく、「基本コストの課題」として見ていることに、注意を向ける。

火星移住は、火星における空気、放射線、水などの問題・課題よりも、コストが課題だということだ。

もちろん空気や水などといった、人間の生きる条件ともなる環境要因は大切である。

しかし、この本においても、それらの問題・課題を、具体性の次元において(一般読者向けに)語っている。

火星移住のシナリオが具体性の中で語られ、最初で述べたように、いかに火星に到達するかということではなく、焦点はどのように住むのかという方向に重力をもつ。

読み終えると、火星移住が現実のものとして感じられるから不思議だ。

 

そして、ぼくが驚いたのは、「Chapter 8: The Next Gold Rush(次なるゴールド・ラッシュ)」という章で展開されている内容だ。

それは、火星の「その先」にあるものだ。

火星と木星の間にある小惑星帯には、鉱石資源がある。

NASAによると、その価値は「今日の地球のすべての人が1000億ドルを持っていること」と同等だろうと言われる。

資源問題という「グローバリゼーション」の行きつく現問題を(範囲はわからないけれど)解決する方途を、宇宙資源がひらいていく可能性がある。

そして、グローバル企業はすでにその「ビジネス」に参入している。

地球と小惑星帯の間に位置する火星は、この方途における「基地」のような役目を果たす可能性があるのだ。

それは先のことかもしれないけれど、実はそれほど遠くない未来の話だ。

準備は進められていて、実際の小惑星における鉱石発掘の試験などは2020年代前半頃ということも、この書は触れている。

地球という「有限の空間」、グローバリゼーションというプロジェクトの行き止まりの空間が、その先に「無限の宇宙空間」をきりひらいていくその仕方と、人と社会への影響を、ぼくは追っている。

宇宙を視野に入れることは、すでに現実問題として、ぼくたちの前に立ち現れている。