「TED Talks」の中でひとつを選ぶとすれば。- Benjamin Zanderの言葉と物語、そして肯定の力。 / by Jun Nakajima


「TED」(Technology Entertainment Design)は、「ideas worth spreading」の精神のもと、TED Conferenceなど、さまざまな事業を展開している。

最初の形は1984年にさかのぼり、2006年に「TED Talks」として無料動画配信がはじまることで世の中に広まることになった。

TEDの講演会では、さまざまな分野の、さまざまな人たちが「ideas」を世界に伝えている。

「TED Talks」は、TEDの講演からキュレートされた動画が配信され、質の高いプレゼンテーションを見ることができる。

サブダイトルも充実し、日本語を含む各国語のサブタイトル付きで、見ることができる。

 

TEDは、「TED Talks」の初期から、ぼくの学びの場のひとつとなっている。

そこには、大きく分けると、ぼくにとって3つのことがある。

  1. 肯定の力
  2. 言葉/プレゼンテーション
  3. 物語

 

まずは、TEDの動画を見るたびに、世界が<肯定の力>で照らされる。

世界には、志を高く持ち、よりよい世界へ向かうための力となる人たちであふれていることを感じる。

講演のトピック・分野はさまざまだから、一層、その「広がり」を感じることになる。

 

この<肯定の力>が、短い時間で区切られた「プレゼンテーション」の中に凝縮されることになる。

TEDを世界的に広げていく原動力となったプレゼンテーション形式。

ぼくたちは、「プレゼンテーションの方法・仕方」という視点において、TEDを素材に学ぶことができる。

ぼくも、講師の立場から、TEDのプレゼンテーションから学んでいく。

この10年、TEDのプレゼンテーションに関する書籍も多数出版されており、学ぶべきことに事欠かない。

「プレゼンテーション」は短い時間の中に凝縮されるため、そこで語られる「言葉」も厳選されていく。

<言葉の力>というものを、世界がふたたび取り戻していく流れのひとつともなっている。

 

<言葉の力>は、そこで語られる「物語」によって生かされていく。

講演者は、プレゼンテーションの中に、<物語の力>を注入していくことになる。

物語には講演者の思いや情熱が流れ、語りにリズムが生まれ、まさしく躍動していく。

すばらしい講演は、これらが一体となっている。

 

ほんとうにたくさんの「TED Talks」の講演の中で、見たのは一部であるという限定性を付けた上だけれど、ぼくがたったひとつの講演を選ぶとすれば、それは次の講演である。
 

「Benjamin Zander: The transformative power of classical music」
(*リンクはこちら)

 

クラシック音楽の指揮者Benjamin Zanderによって2008年に行われた講演は、今でも、見るたびにぼくに感動を与えてくれ、ぼくを触発し、学びを提供してくれると共に、すばらしいプレゼンテーションの原型のようなものとして、ぼくの中にある。

プレゼンテーションスキルということで言えば、プレゼンテーションに関する書籍である、Nancy Duarte『Resonate: Present Visual Stories that Transform Audiences』(Wiley)の中で、Benjamin Zanderのこの講演が素材として取り上げられている。

観客とのエンゲージメントもすばらしいものがあるし、プレゼンテーションという形での<物語>は、その中に笑いや悲しさや感動などのすべての要素がある。

講演はピアノを使いながらすすみ、動画を通じても、講演の親密さが伝わってくる。

この<物語>を通じて、観る者は、クラシック音楽の「内的な音楽」にとりこまれ、その世界はいつしか自分の人生の「内的な音楽」にまで射程を伸ばしていく。

音楽のコードに言葉をのせながら、Benjamin Zanderはこのことを成し遂げる。

 

Benjamin Zanderは、講演の終わりの方で、「指揮者」は、オーケストラの中で「音を出さない」ということに、45歳で気づいたことの話を伝えている。

「音は出さない」けれど、人の可能性を引き出すのが指揮者である自分の役目だと。

その気づきが、Benjamin Zanderの生の方向性を決定づけてゆく。

そんなBenjamin Zanderの「成功の定義」は、シンプルだと、彼は言う。

成功の定義は「It’s about how many shining eyes I have around me.」だと言う。

自分の周りにどれだけの人たちの目が輝いているのか。

「shining eyes(目が輝くこと)」。

ぼくが、西アフリカのシエラレオネで、東ティモールで香港で、目指してきたことと、それは重なる。

だから、Benjamin Zanderの言葉と情熱に動かされて、「目が輝くこと」を、ぼくは自分の「個人ミッション」の中に取り入れることにした。

目が輝くという<肯定の力>と共に、今日の一日を、ぼくは生きる。