自然のなかで得たインスピレーションに導かれるクリスマスソング。- Gwen Stefani のクリスマスアルバム『You Make It Feel Like Christmas』。 / by Jun Nakajima

ぼくにとっての「クリスマスソング」と言えば、いわゆるスタンダートナンバーももちろんチョイスのうちだけれど、なによりも、John & Yoko/Plastic Ono Band(ジョンとヨーコ/プラスティック・オノ・バンド)の名曲「Happy Xmas (War is Over)」である。

ほんとうのところを言うと、この名曲は、「クリスマス」に限ることなく、ぼくの生きるという経験において、ひとつの大切な「物語」の一部としてありつづけてきたように思う。

昨年のブログ「東ティモールでむかえた「クリスマス」(2006年)の記憶から。- 「War is over, if you want it...」(ジョン・レノン)」で書いたように、2006年の騒乱を受けた混乱のなかで、ぼくのなかで、この曲が流れていた。2006年だけでなく、それ以前、西アフリカのシエラレオネにいたときだって、その内戦が終結したばかりの国で、この曲はぼくのなかで鳴り響いていたし、今だってぼくのなかで奏でられている。


そうでありながら、今年(2018年)挙げておきたい「クリスマスソング(クリスマスアルバム)」は、Gwen Stefaniのクリスマスアルバム『You Make It Feel Like Christmas』(2017)。

全12曲(6曲のオリジナルと6曲のスタンダードナンバーのカバー)が収められたこのクリスマスアルバムは2017年に発表され、2018年には「Extended Edition」として、5曲(2曲のオリジナルと3曲のカバー)が加えられた。

アルバムのタイトルともなっているオリジナル曲「You Make It Feel Like Christmas」を含め、楽しさと歓びとインスピレーションに充ちた曲たちが収められている。また、想像したこともなかったのだけれど、Gwen Stefaniの独特の歌声は、なんともクリスマスソングとの相性がよいのだ。


Gwen Stefani(グウェン・ステファニー)は、アメリカのバンド「No Doubt」のボーカリストとして世に知られるようになり、ソロでも活動をしてきた歌手である。

彼女の存在をぼくが知ったのは、1996年のこと。当時は「No Doubt」のボーカリストであったグウェン・ステファニー。アルバム『Tragic Kingdom』(1995)、およびそこに収められた曲「Just a Girl」が人気を博していたときだ。

1996年にニュージーランドに住んでいたぼくは、ハウスメートたちと一緒にテレビで観ていたMTV番組を通じて、バンド「No Doubt」のことを知った。「Just a Girl」の曲に、ぼくは惹きつけられたのであった。ぼくは、オークランドのレコード店で、手頃な価格のカセットテープでアルバム『Tragic Kingdom』を購入したことを記憶している。

さらに運がよかったのは、1996年9月に「No Doubt」が『Tragic Kingdom』の世界ツアーで、オークランドにやってきたことである。ぼくはこうして「No Doubt」の音楽を、オークランドのライブハウス「Powerstation」で直接に聴くことができたのだ。

ぼくが当時住んでいた家からすぐ近くにあったライブハウス「Powerstation」はまさにライブハウスで、それほど大きくもなかったから、ぼくはほんとうに間近で、「No Doubt」の音楽の、あのうねりと熱を感じることができた。

でも「No Doubt」の音楽はアルバム『Tragic Kingdom』を頂点としながらバンド活動は次第に縮小してゆき、ぼくも、このアルバムを除いて、それほど聴かなくなっていった。

そのあいだもグウェン・ステファニーがソロ活動を展開していたことなどは耳にしていたのだけれど、そんな時期がずっとつづいていたところ、昨年(2017年)、クリスマスアルバム『You Make It Feel Like Christmas』が世に放たれ、聴けば聴くほどに、このアルバムに惹かれるのであった。


「クリスマスアルバム」をつくろうと触発された契機は「nature walk」(自然のなかを歩くこと)のなかにあったのだという(※Wikipedia英語版)。

ボーイフレンドであり、「You Make It Feel Like Christmas」の曲をともに歌っているカントリー・ミュージシャンBlake Sheltonのオクラホマにあるランチ・ハウスと自然のなかで、グウェン・ステファニーは、運動をしたり、メディテーションをしたり、祈っていたりしたのだという。近くにある自然のなかを歩きながら、ふと、自問がわいてくる。「クリスマスの歌をじぶんが書くとしたら、どんな歌になるのだろう?」と。

そんな問いとインスピレーションに導かれながら、クリスマスアルバムの制作につながってゆく。そのプロセスは、つらい感情を曲に変換するという前作とは異なり、ただ「歓び」に充ちていたようだ。

そんなふうにして、楽しさと歓びとインスピレーションに充ちたクリスマスソングがつくられ、ここに収められた曲たちを通して、それらの感覚がぼくたちに伝わってくるように、ぼくは思う。

そこに1996年にオークランドで聴いたグウェン・ステファニーの独特な歌声の芯をひきつづき感じながら、でも、20年の歳月とそのあいだの彼女の生が凝縮され、深いところに込められているようにも、ぼくは感じる。いろいろな辛い体験や困難なことも一緒に凝縮され、たしかな地層ができて、その地層から「楽しさと歓び」が生成されてきたような曲たちと歌声である。