香港で、「Buy One, Get One Free」(=BOGOF)の威力のまえで。- ピザも、「BOGOF」。 / by Jun Nakajima

香港のフードコートで食事をしていたら、ピザを売っている店舗のまえに、いつにもなく人が並んでいるのを目にする。ピザを一切れごとに販売しているお店だ。

金曜日の夕方ということもあってこんなにも多くの人たちがピザにひきつけられるのかなぁとなんとなく思っていたら、お店のうえにかかげられているバナーがぼくの目にはいってくる。


「…Buy One, Get One Free …」


どうやら創業記念の企画のようで、「Buy One, Get One Free」(BOGOF)、文字どおり、「ひとつお買い上げでひとつ無料」である。「BOGOF」の威力は圧倒的だなぁと、絶えることのない行列を見ながら、ぼくは納得する。

行列に並ぶのは好きではないから、購入することは考えず、お店の様子や行列の人びとの様子をそれとなく眺めていた。ところが、ふと、行列が短くなる「とき」が訪れて、購入意欲がわきあがってくる。結局のところ、それほど待たずに、「BOGOF」でピザふた切れをオーダーした。

ここのピザは以前食べたときの記憶に反して、おいしかった。これだけ人が並んでいると、ピザのまわりも速く、「出来立て」を食べることができるのが理由のひとつであった。

他に考えられる理由としては、もちろん具材があり、つくる人たちの技がある。最近ときおり感じるのは、香港の人たち(もちろんここではかなり「一般化」している)のパワーが十全に発揮されるのは、「ある水準の忙しさ」が条件としてあるのではないかということである。「速さ」が社会に内蔵されている香港では、この「適度の忙しさ」がないと、リズムが出てこない(ある意味、べつに香港にかぎったことではないけれど、香港の「速さ」の側面においてこれはいっそう重みをもつように見える)。そんなふうに思ったりするのだけれど、あくまでも仮説のひとつである。

と、脇道にそれたけれど、要は、ぼくも「BOGOF」の威力にひきこまれてしまったのである。


香港における「価格への敏感性」にはときどき疲れてしまうこともありながら、ぼくも「価格への敏感性」をいっそう身につけてきたようなところもある。香港の店舗などで店員さんにすすめられ、教えられてきたところだ。店員さんはときおり、「じぶんごと」として、本気でマネーセービング(お金の節約)の仕方を教示してくれるのである(「ビジネス」としてのプロモーションの仕方も、客観的に楽しく聞くことができる。ときに、やはり疲れてしまうけれど)。

こんな状況を客観性をもって「楽しく」眺め、生活している。アドバイスにしたがうこともあれば、きっぱりと断ることもある。どちらにしても楽しさと好奇心でするのである。

でも、そんな客観性をつきやぶって、プロモーションやディスカウントの「威力」はやってくることがある(「お金の魅力」はやはりあなどれない)。こうして「…Buy One, Get One Free …」の威力に圧倒されながら、ピザを購入する。

香港ではどこでも、そんなふうに「誘惑の磁場」にはいりこんでしまう。