「未来」を見据え、考え、構想するための5冊。- 生き方・働き方をひらいてゆくために。 / by Jun Nakajima

年末になると、いろいろなメディア媒体で、例えば「今年の◯冊」のような記事が掲載される。

ぼくは「他者の書棚」を見るのが好きなので、ただ楽しみ、ぼくにとっての「良書」を探す。

ただし、年ごとの切り口よりも、「今」という時点で読んでおくべき大切な本に注目する。

 

「未来」ということは、常に考えている。

「不確実性」に焦点があてられやすい未来だけれど、それ以上に、ぼくにとっては好奇心が圧倒的に勝る<未来>だ。

その「未来」というキーワードにおいて、未来を見据え、考え、構想するための5冊を、ここでは挙げておきたい。

生き方・働き方をひらいてゆくための「土台」となる本だ。


 

(1)見田宗介『社会学入門:人間と社会の未来』岩波新書

刊行されたのは2006年。

今から10年前だけれど、まったく古くならず、むしろ、今の時代においていっそう大切なポイントとなる理論と論考で詰まっている。

「社会学」という学問の枠をつきぬけて、副題にあるように、「人間」と「社会」の未来を、硬質で、ゆらぎのない理論と論理で、論じている。

見田宗介が語るように「社会学」とは<関係としての人間の学>である。

そして、「未来」をひらいてゆくために、この<関係性>がゆらぎ、問われている。

理論的な骨格としては、第六章「人間と社会の未来ー名づけられない革命」と補「交響圏とルール圏ー<自由な社会>の骨格構成」は、必読の内容である。

 

(2)Yuval Noah Harari “Homo Deus: A Brief History of Tomorrow” HarperCollinsPublishers

『サピエンス全史』で有名な歴史学者の著作。

日本語版はこのブログ執筆時点では刊行されていないけれど、刊行されれば日本でもよく読まれるようになるだろう。

ユヴァル・ハラリが著作で展開する「人類の21世紀プロジェクト」とは、人類(humankind)がその困難(飢饉・伝染病・戦争)を「manageable issue」として乗り越えつつある現代において、次に見据える「プロジェクト」で、大別すると下記の通り3つである。

  1. 不死(immortality)
  2. 至福(bliss)
  3. 「Homo Deus(神)」へのアップグレード

「Homo Deus」とは、「神」なる力(divinity)を獲得していくことである。

「神」になるわけではないが、「神的なコントロール」を手にしていくことだ。

読みやすい文章と視点で、ユヴァル・ハラリを導き手に「明日の歴史」を<読む>ことができる。

ぼくにとっては、見田宗介の理論とユヴァル・ハラリの論考とを合わせながら、接合しながら、差異を確認しながら、「未来」をよみときたいと思っている。

 

(3)Lynda Gratton & Andrew Scott “The 100-Year Life: Living and Working in an Age of Longevity” Bloomsbury

日本語訳では『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)ー100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)としてベストセラーになってきた書籍。

ベストセラーとなっても、即座に、人や社会の「価値観」が変わっていくわけではない。

価値観の変遷はまだこの先当面続いていくなかで、「100年時代の人生戦略」の視点と計画と実践を、生き方と働き方、社会システムや組織システムなどに接合していくことが必要である。

ここ香港では、あまり(というかほとんど)取り上げられていない。

しかし、香港人口統計の今後の推移を考慮すると、今から取り組んでいかなければいけないことである。

 

(4)養老孟司『遺言』新潮新書

「新書」という小さな本でまとめられているけれど、養老孟司の「思考と経験」が凝縮された、骨太の本である。

脳化社会・都市化などのこれまでの論点も含め、「人間」というものに、深く深く、思考をおとしてゆく。

養老孟司じしんが述べるように「哲学の本」ともとられかねない内容だけれど、自然科学的な考察も随所になされ、「分類の仕様のない本」である。

「ヒトの意識だけが「同じ」という機能を獲得した」という、この「同じ」をキーワードに、あらゆる事象をよみといていく。

読みやすい本だけれど、養老孟司の「思考」をじぶんのものにすることは容易ではない(ぼくにとっては)。

 

(5)西野亮廣『革命のファンファーレ:現代のお金と広告』幻冬舎

職業としての「芸人」という枠におさまらず、生き方としての<芸人>へと生をひらいてきた西野亮廣が、ビジネス書として世に放つ2冊目の著書『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』(幻冬舎)である。

本書は、西野亮廣じしんが言うように、西野の<活動のベストアルバム>となっている。

<生き方としての芸人>という試みは、世界と時代をひらいてゆく試みである。

その試みの、実際の「経験と学び」を、西野亮廣は、この著書で共有している。

上に挙げた4冊とは趣を異にするように見えるけれど、その根底においては、さまざまな通路においてつながっている。

 

 

最初に挙げた著作(『社会学入門』)における、社会学者の見田宗介が見はるかしている、今という世界と時代の「立っている地点」の文章を、最後に抽出しておきたい。

 

 …ぼくたちは今「前近代」に戻るのではなく、「近代」にとどまるのでもなく、近代の後の、新しい社会の形を構想し、実現してゆくほかはないところに立っている。積極的な言い方をすれば、人間がこれまでに形成してきたさまざまな社会の形、「生き方」の形を自在に見はるかしながら、ほんとうによい社会の形、「生き方」の形というものを構想し、実現することのできるところに立っている。

見田宗介『社会学入門:人間と社会の未来』岩波新書