堀江貴文著『多動力』。- シンプルで、本質的で、ストレートなメッセージと生き方。

堀江貴文の新著『多動力』(幻冬舎)。
堀江貴文が「渾身の力で書いた」という本書に、ぼくは惹かれた。

そのエッセンスを少しだけ取り出して、書いておこうと思う。


1)『多動力』について

「多動力」とは「いくつもの異なることを同時にこなす力」のこと。
技術や方法論が書かれているが、この書籍の「総体」はそれ以上のものである。

堀江貴文は「あとがき」にこう書いている。
 

「多動力」は大量の仕事をこなすための、技術ではない。
命が果てるまで、1秒残らず人生を楽しみきるための、生き方である。

堀江貴文『多動力』(幻冬舎)


本書は多動という生き方の本である。

なお、本書は、出版社(幻冬舎)とNewsPicksの共同プロジェクト(「NewsPicksアカデミア」)の作品。
この書籍自体が「多動力」の成果でもある。

本書の「目次」は、次の通りである。

【目次】
第1章:一つの仕事をコツコツとやる時代は終わった
第2章:バカ真面目の洗脳を解け
第3章:サルのようにハマり、鳩のように飽きよ
第4章:「自分の時間」を取り戻そう
第5章:自分の分身に働かせる裏技
第6章:世界最速仕事術
第7章:最強メンタルの育て方
第8章:人生に目的なんていらない

それぞれの章に「項目」が立てられ、総数31項目が語られる。
各項目の最後のページには、「やってみよう!JUST DO IT リスト」が掲載されている。

本書が書かれた「背景」については、本の表紙にも簡潔に記されている。
「全産業の“タテの壁”が溶けた
この時代」に必須のスキルとして、「多動力」が提唱される。

「タテの壁」は、「垂直統合型モデル」としてここでは述べられる。
例として挙げられているのは、テレビ業界。
番組製作から電波送信まで、業務が垂直に統合されている。

そのモデルに対するのが、「水平分業型モデル」。
水平分業型モデルとしては、インターネットである。
そこでは、電話もSNSもゲームも電子書籍も、すべてがスマートフォンのアプリという「一つのレイヤー」に並べられる。
IoT(Internet of Things)の普及が重なり、すべての産業が「水平産業型モデル」となっていく。
このように「タテの壁」が崩れているのが今の時代である。

そこで求められるのが、産業の壁を越える「越境者」として述べられる。
越境者に必要な能力が「多動力」というわけだ。

 

2)堀江貴文のエッセンス

堀江貴文にとって、「越境者」とはそうなること自体が目的ではなく、「多動力」もそれ自体が目的化されるものではないと、ぼくは思う。

堀江貴文は、「ほんとうに歓びに充ちた人生」を不羈に追い求めてきただけだ。
だから、堀江貴文が本書で「人生に目的なんてない」と言いきるとき、それは「ほんとうの歓び」という「目的」に賭けられた人生であり、生き方であるように思う。

堀江貴文のエッセンスは、次の3つに集約されてくるように、ぼくには見える。

●「洗脳」(思い込みや既存の価値観)から解き放たれること
●「本音」で生きること
●「行動」すること

堀江貴文の他の著作に重なるエッセンスである。
本書でも「多動」ということを軸に、これらのエッセンスが経験をもとに語られている。

それらは、シンプルで、本質的で、ストレートなメッセージである。

だからこそ、それらの言葉(の表層)だけが抽出され、異なる文脈と異なる目的の中で、「間違って」使われてしまったりする。
堀江貴文のメッセージは、読者を「通過」して、行動(多動!)にまで貫かれている。
その「通過」のプロセスで、メッセージを「間違って」捉えないことだ。

堀江貴文の思考は、本書の項目(例えば、「15. 教養なき者は奴隷になる」「16. 知らないことは「恥」ではない」)に見られるように、学びに開かれ、「本質」を基盤にしているのだ。

「シンプルで、本質的で、ストレートなメッセージ」を送ることが、難しい時代でもある。
堀江貴文は、多動力とそこにある「生き方」を土台に、難しいけれど楽しい時代を「行動」で一気に突破している。

 

3)「Just Do It」

「やればいいじゃん」

堀江貴文の著作『すべての教育は「洗脳」である』(光文社)に付された言葉である。
これと同じように、本書のメッセージも、タイトル通り、「たくさん行動せよ」にある。

しかし、ここも「間違って」はいけない。
繰り返しになるが、堀江が書くように、「多動力」は人生を楽しみきるための生き方、である。
その生き方を、堀江貴文は実践し、他者を巻き込みながら、見せ/魅せ続けている。
ところが、堀江本人は、そんな気はなく、ただ「夢中で日々を過ごしている」だけである。
生きる「指針」(また「目的」)を、この「夢中さ」に完全にゆだねることに、彼の多動力は賭けられている。

「あとがき」で、堀江貴文は、次のように、呼びかける。
 

重要なことは、Just do it. Just do it.
ただ実践することだ。失敗して転んでも、また実践する。膝がすり傷だらけになっても、子供のように毎日を夢中で過ごす。

堀江貴文『多動力』(幻冬舎)
 

堀江は「子供のように毎日を夢中で過ごす」と、繰り返し、書いている。

そして、Nikeのスローガンでもある「Just do it」。
堀江貴文が意味するところは、Seth GodinがNikeのスローガンを解釈して書き直したように、こう解釈して書き換えられるはずだ。

「Only Do It.」(Seth Godin, “What To Do When It’s Your Turn”

「子供」には、「Only」の選択肢が、ただ開かれているだけなのだ。
 

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社会学者「見田宗介=真木悠介」先生の応答に、15年以上触発されつづける。-「理論・理念」と「現実・経験」の間で。